さて、いよいよ 「ファイナルロード」 のための 「タネあかし」 について、考察していきます。
まずは基本的なことを確認しておきますが、ここでの 「タネあかし」 は、あくまでも 「嘘のタネあかし」 であることが大前提となります。
では 「嘘のタネあかし」 とは何かというと、ヴァーノンの手順でいえば、それまでに起こっている現象の 「裏側」 を説明するフリをして、実際のやり方とは違う方法を(観客に対して)解説するということです。
具体的にいうと、 「ポケットに入れたはずのボールが、カップに戻ってくる」 という現象のやり方として、実際のところは、エキストラ・ボールを使用し、かなり事前にロードしておいたボールを示すだけなのですが、そのやり方を説明する際の 「嘘の説明」 として、 「ボールをとるフリをして(へたなフレンチ・ドロップを行う)、ポケットにはカラの手を入れ、実際にはボールを持っている方の手でカップを持ち上げ、同時に隠しているボールを落すと、まるでボールがカップの中に、戻ってきたように見えるのです」 そのような説明のことです。
ちなみにこの手順の中では、ヴァーノンが 「本当のフレンチ・ドロップ」 を使うシーンは一度もありません。手順上は、 「フェイク・トランスファーの手法」 も、 「ボールがカップの中より出現する部分の原理」 も、実際のやり方とはまったく異なりますから、結果的には 「嘘のタネあかし」 という訳ですが、ここで一つ問題となるのは、こういった 「タネあかし」 が、けして 「嘘」 にはならない手順もまた、数多く存在しているという点です。
例えば、 「フレンチ・ドロップ」 のやり方を、一般客に見せて問題はないのか?といったことですが、ここの部分だけを、あえてピックアップすると、一見よくないことかのように感じますが、ヴァーノンはあくまでも 「理屈のみ」 を説明しているだけであり、実際わざと 「ぎこちなく」 行うようにしています。ここを変にうまく行って、 「本当の技法」 を見せてしまってはいけないわけです。
この部分を勘違いして、本当に技法を見せてしまう奇術家が多い (おそらくタネあかしであるという安心感が、かえってわざわいするのかもしれません) という現実が、 「嘘のタネあかし」 という、けして悪くはないアイデアを、頭から否定してしまいがちな元凶となっているのかもしれません。
前回紹介した、ジョニー黒沼さんの言う 「私はタネあかしがキライなんです」 というのが、要はそういった部分に関してのことなのか、それとも、本当だろうが、嘘だろうが、奇術家がわざわざ 「タネあかし」 を、一般客の前で行うこと自体を嫌っているのかは定かではないのですが、いずれにしても、ごく当たり前のこととして、 「本当のタネあかし」 は、基本的にしない方が賢明でしょう。
無論、例外もあるのですが、特に 「スライハンドにおけるイリュージョン」 例えばカップ&ボールでのシークエンスでいえば、手に握られたボールが消えるシーンなどが、ほぼ完璧に行われているときほど、そこで本当の秘密を(一方的に)知らされることは、多くの魔法を信じたい観客にとって、非常に大きな失望感を与えることになるのです。 つづく
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