左へ受け渡す

前回 「観客にはあなたの右手ではなく、左手にモノが入っていると信じてほしいわけです」 と書きましたが、そのためには 「演者自身も信じなくてはいけない」 という考え方があります。

細かいニュアンスはこの際無視することにして、ここでは上記の考えが正しいと仮定しましょう。

となると問題はどうやって信じるのか?です。

自分では事実 (そうではないこと) を知っているわけですから、「本当に信じる」 ということは結構難しいものです。

おそらくより正確にいうならば、「どうしたら自分で納得できるのか?」 ということになるのだと思います。

そこに疑問を感じているうちは、仮に見た目の動作 (フェイク・トランスファー) が完成されていたとしても、そのストレスを観客に悟られてしまいます。

ではそういった理由づけ (エクスキューズ) としてよく引き合いに出される有名な、そして理想的な例をあげてみましょう。

無論よくご存知のことかもしれませんが、そのような方は復習のつもりで…… 一応私の考えも含まれております。(念のため)

① あなたはマジックウォンドの持つ不思議な力を観客に見せたいと思っています。

それは小さな品物を消してしまうという、とても魅力的な力です。

② ふと見ると、あなたの右側にボールとウォンドがありました。

③ あなたはごく自然に 「右手で」 ボールを取りあげますが、ここで、ウォンドを使うときは (常に) 右手に持たなくてはいけないことを思い出しました。 (……おっといけない!)

④ あなたはウォンドの方を見つめ、流れ上、当然右手のボールを 「左手に」 受け渡します。

⑤ 空いた手でウォンドを取り、いつものポジションに保持します。 (これで良しと)

⑥ ここで左手のボールを見つめ (今日もうまくいってくれよ……)、所定のポジション (握り締めること) にしてから、ウォンドでいつもの 「おまじない」 をかけます。

⑦ 左手を広げると (いつものように) ボールが消えています。 (ホッ……よかった (^^)/)

かなり細かく感じるかもしれませんが、基本的にはパスを行うたびに上記のような自分自身納得のいく心の動きや、受け渡しの理由を考えておかなくてはなりません。

当然 「仕事」 の量が増えれば増えるほど、上記のような想定をしっかり作り、かつキチンと表現することは難しくなりますので、一般的にいって 「仕事量」 は少ない方が良いわけです。

さて、ここからが前回の冒頭でふれたことに関連してくるのですが、上記サンプルにおいては、④の段階でボールを握りしめてはいないことに注意してください。

④では単に 「受け渡して」 いるだけです。

あなたの表向き (見た目) の動作においては、「さあ、今からおもしろいこと (ボールの消失) をご覧にいれましょう!」 というのは、⑥の段階になってからなのです。

おそらく一般的によく行われているのは、④の段階でボールを握りしめてしまう方法であり、スライハンドがうまく、かつ上記の流れに概ねそっている場合、通用するのは確かなのですが、あくまでも理想としては⑥の段階まで待つべきだろうと思います。

「握りしめる」 という行為は、あきらかに 「今から消えますよ」 といった意思表示をすること以外に正当な理由付けがありませんので、「握り締める」 という行為を観客が把握する段階においては、この段階で (すでに) 裏の仕事を終えている必要があると思うのです。

ところで前回 「この部分に関する実例を提示します」 と書きました。

「この部分」 がどこにかかっているのかと言うと、「受け渡した瞬間に手を握る」 という動作が、日常ではどういったとき起こりえるなのか? ということなのですが、長くなりましたのでこれはまた次回に。


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