ここ3,4年のブームでマジックをはじめた方にとっては、以外に知られてはいないのかもしれませんが、少なくとも80年代までは、日本における 「カップ&ボール」 のスタンダードは、ダイ・ヴァーノンの手順であったと思われます。
現在では、多くのマジシャン達の演技が、手軽に何度でも(映像で)鑑賞できる時代となり、マジックの世界に慢性的にはびこり続けている、 「表層的な目新しさだけに飛びつく」 といった、悪性腫瘍の進行度にも、より拍車がかかっているといえるでしょう。
特に「カップ&ボール」に関していうならば、本来省略する部分こそあれど、新たに付け加える部分などないはずなのですが、そこが奇術家のハマりがちな 「落とし穴」 であるともいえます。
ところで、日本では80年代に紹介された 「トミー・ワンダーの2カップの手順」 には、それまでになかった 「本当に新しいコンセプト」 が導入されており、また、それはただ単に 「目新しさ」 のために考案された手順ではなく、実際の演技上の必要にせまられて構成された、 「おそろしく緻密な手順」 であり、非常に感心しました。
あえて問題点をあげるならば、技術的に難易度が高く(スライハンド、ミスディレクションともに)、またそれ以上に、その手順にマッチしたキャラクターや、演技そのものが大変に難しいため、当時はご本人の演技を見ていても、正直 「大変そうだな」 と思ったものです。
ところが、何年か前に発売されたビデオ、L&L社の 「ビジョン・オブ・ワンダー」 を観て、本当に驚き、そして嬉しく思いました。
氏の演技はより洗練され、ほぼ完成された、素晴しい演技を鑑賞することができたのです。
結局何が言いたいのかというと、トミー・ワンダーのように、天才といわれながらも、一切の妥協をゆるさない 「奇術家の鏡のような人物」 でさえ、思いつき、構成し、実際にそれを演技として完成させるまでに、云十年かかっているマジックを、みなさんがそのまま(真似して)演じようとしても、 「無理!」 そういうことです。
そういった訳で、現在において 「カップ&ボール」 の基本的な考え方や手法を学ぶ上でかかせないのが、ヴァーノンの手順であるのだと思います。
それまでは主に大道で行われ続け、観客との 「バイプレイ」 の部分に重点が置かれていたため、どうしても手順そのものが 「長いもの」(10分~20分) となりがちであった 「カップ&ボール」 を、この古典にとって大切な 「エッセンス」 のみを残し、3~5分程度のものに構成し直し、有名にしたヴァーノンの功績は、実に大きなものであったといえるでしょう。
……で、その手順において、よく論議の的となる「ファイナル・ロード」のための 「タネあかし」 に関する考察ですが…… それはまた次回ということで ^^; 。
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