カップ&ボール再考 5

「ウソのタネあかし」 を 「ファイナル・ロード」 のためのミスディレクションとして使用するアイデアは、けして悪くはないと書きましたが、もちろんそれがベストのやり方であるとは限りません。

他のアイデアと同じ事で、演者のキャラクターや、その目的など、当然さまざまな条件によって、事情が変わってくるのは当たり前のことです。

まずは、このアイデアを成立させるための条件を考えてみましょう。

①タネあかしに至る前の段階で、それまでに起こっている現象が、充分不思議に見えていること。

②それまでの過程で、観客自身がその秘密を知りたいと思っていること。

③「ウソの説明」は、観客が違和感なく納得できるものか、おもしろいものであること。

大雑把ですが、基本的には以上の3点がクリアーできていれば、演者、観客側ともに、問題はないはずです。

※前田氏の手順の場合は、前段において「不思議なこと」は起こってはおらず、レモンが登場するまでは「マジック」ではありませんから、今回の考察の範疇からは、はずれているものと考えてください。 この点については、また別の機会に……。

おそらく上記の条件の中で、一番コントロールが難しいのは②番かと思われますので、この問題は後回しにしたいと思います。

とりあえず、演者側がこのアイデアを生かすために最低限すべきことは、①番と③番であるということです。

①番に関しては、今更説明するまでもないことなのでしょうが、現実には、最もないがしろにされている部分でもあります。 「技法」 がうまくないことは論外なのですが、かりに 「技法自体は完璧」 だったとしても、それが、他のすべての動作(最低限の説明等を含めた手順すべてです!)の中に、自然にとけこんでいなければ、そこにまったく意味はありません。

※ゼロ、もしくはマイナスになることはあっても、絶対にプラスにはならないのです。

おぼつかない手つきで、たどたどしい説明をしながら、なんとか(決められた)段取

りを進めてきた演者が、 「今日は特別に、やり方を説明しましょう!」 などと突然言い出したとしても、観客がそれを望むとは思えません。

せいぜい 「結構です。もう充分にわかりましたから!」 そういわれるのがオチです。

要は、以前にも申し上げたように、 「それまでのプロセス」 を大切に(確実に)しなければならないということです。

そして、多くの場合に取り沙汰されているのは、③番の問題であると言えるでしょう。 実際この部分は、プロを含めた 「いわゆる上級者」 の範疇に入る人たちでも、あまりうまく解決できていないように見うけられます。

例えば、私は、カズ・カタヤマさんの演技を何度も拝見しておりますが、氏が長年にわたって悩み続けている部分も、正にこの部分のようで、 「ウソの説明」 が、本来の手法と結びつけられること…… つまりフェイク・パス(プットやテイク)

を連想されることを、あまりにも嫌う結果、 「ボールを秘かに投げてキャッチする」 といった、でっち上げのウソの手法を観客に説明しています。

ここでマズイと思われるのは、そのような手法で生じるようなアクションを、それまでの演技の中では一切使ってはいないということです。 

正に突然、とってつけたようなやり方を説明されても、到底 「違和感なく納得すること」 はできないでしょう。

また、このような 「手法」 も、現実には存在しないこともない訳で、例えていえば 「ストライキング・ヴァニッシュ」 や 「マッスル・パス」 等を連想させないとは限りません。 

要するに、秘密を明かさないというのはあくまでも程度の問題なのであり、このアイデアを演者が採用しようと考える限り、秘密に一切抵触しないことは不可能だということです。 

結局、観客に対して余計な負担をかけずに手順を進めるためには、前回紹介した、ポール・ガードナーのようなやり方が無難なのだろうと思います。

さて、上記の考察は 「観客が違和感なく納得できる」 という部分の話でしたが、もう一つの 「おもしろいものであること」 に関しては、何故かカップ&ボールの手順においては、今までにあまり日本では研究されてこなかった部分であろうと思います。 

※ヴァーノン以前の、古典的な手順において、垣間見ることができます。

カズ氏が、うまくこのコンセプトを取り入れることができれば、氏の演技はほぼ完成だろうと想像するのですが……。

mMLの8号で、ホーミング・カードを解説していますが、このときに採用しているのが、正にこのコンセプトであるといえます。 

観客にも分かりやすく伝わる 「あきらかな」 いわばギャグとしての 「ウソのタネあかし」 であり、これは、よりバカバカしく、荒唐無稽であるほど良いわけです。

※実際に笑ってもらうことで、ミスディレクションも、より強烈なものとなります。

具体的なアイデアに関しては、ここでは言明をさけますので、ここから先は是非みなさん自身で考えてみてください。

いずれにしましても、多くのマジシャンが 「ウソのタネあかし」 を採用する大きな理由の一つは、①、③といった条件をそこそこみたしていれば、その際に生じる 「ミスディレクション」 の効用が、非常に大きいものであるからに他なりません。

ただし、冒頭に説明したように、このアイデアを無理に採用しなくても、 「ファイナル・ロード」 は充分に可能です。

是非とも固定概念にとらわれることなく、演者自身の個性に合った、無理のない手法を身につけてほしいものです。  つづく


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