人前でマジックを演じる機会が数えるほどしかない… そういう方にはあまり通じない話なのでしょうが …というか私の話は大抵そういった内容ですね。(^^;)
ライブのレクチャーやmMLなどでは毎回繰り返し言っている 『負担を減らそう』 という話。
mMLではここ数年続けている 『トークレクチャー』 の一テーマとしても以前取り上げたような気もしますが (記憶違いならごめんちゃい) このテーマは大まかにいうと2種類ありまして、ひとつは 『観客の負担を減らそう』 という話と 『演者の負担を減らそう』 という話。
どちらも重要な話ですが、今回は後者の方で、演者の負担に関すること。
細かい前提は省きますが、きちんとマジックを演じようとすると、とにかく気にすべき仕事量 (表も裏も) が多いのが事実。
ひとネタだけならばともかく、3つ、4つと続けて演じる場合には、どんな些細なことでも、演技のクォリティを下げない範囲で仕事量は少ないほうがよいわけです。
今年の3月に私の開催したレクチャーのなかで、『インビジブル・デック』(ウルトラメンタル・デック)とレギュラー・デックを組み合わせて使用する作品の解説をしたのですが、その際、上記デックにおけるオーソドックスな 『引き算式(13-X)』 のセットアップを、もっと楽にする方法を合わせて説明しました。
ペアとなるカードをすべてメイトカードにしてしまうのです。
(^^;
大胆ですよね… なんといっても観客に見えている面にはマークが2種類しかないのですから。
このやり方自体が誰のものかはわかりませんが、正直に言いますと、昔このやり方を初めて聞いたときには、「セットが大胆すぎて使えないのではないかしら」 そう思いましたし、少なくとも 「自分は従来の方法で困らない」 そう考えました。
し、か、し、です。
40代も半ばを過ぎ、さらには昔のように電話番号を覚える必要もなくなった現在、上記のデックをはじめ、自分的には楽勝なはずのトリックをミスすることが多くなったのです。
単独で演じる場合はともかく、一つの長い手順の中に、キーカードが2つとか、計算が2種類とか、実際のところ (完全な水面下で演じきることは) 普通の人間には無理なのです。
※毎晩のように同じトリックを演じられる環境があれば可能なのでしょうが、それにしてもファン・タマリッツ氏やダニー・ダオルティス氏のように、いつでもパフォーマンスできる環境を作り続けないと、いずれはできなくなるのではないかなと。
そこで数年前からは単独のトリックの場合でもこの楽なセットに変えましたが、負担が軽くなるだけで、演技的にはまったく問題がないこともはっきりとわかりました。
そりゃあそうです。^^;
観客にとって重要なのは残りのデックのマークがきちんと4つあることではありません。
たった1枚の裏向きのカードが何であるかという1点のみなのです。
冷静に考えたら当たり前といってもよいくらいの話ですね。
でもこの当たり前になかなか気が付けなかったりするのです。
今どんな現象が起ころうとしていて、観客が気にしている部分はいったいどこなのか?
マジックはもう40年近く、講習自体も20年以上やってきて、生徒さんにはいつも言っていることなのに、いくつになってもそんな発見ばかりです。
マジックって本当に難しい… そしてそれも楽しい。
もう一つの例を。
個人的に大好きなトリックであり、実際の仕事の場面でもかれこれ20年以上レパートリーとしてきた名作。
『サイドウォーク・シャフル』
元々はノーギミックであった作品をマーチン・ルイス氏がアレンジし、それを気に入ったフレッド・カップス氏も独自の手順を構成し、世界中で演じられたため、マジシャンの間では超有名なモンテ・トリックです。
私自身、ルイスやカップスらの手順 (どちらも巧妙ですばらしい!) を一通り試してみましたが、それぞれに3段の手順のすべてが表面上の流れとは異なり、さらにはディバイデッド・カードであるが故のカードの向きに関する問題など、演者の負担が想像以上に大きいのです。
ギャフであるが故、スライハンド的な難しさがない代わりに、そのギャフ構成であるが故のストレスがそれなりに。(^^;
実際、カップス、ポール・ダニエル氏などの名人の演技(テレビやビデオで視聴)はともかく、生ライブで見てきた多くの演者の中で(ここ20年くらいの話ね)、観客として普通に楽しんで見ることのできた方は、カズ・カタヤマさんやボナ植木さんくらい。
大抵の人は正直なところ… 怪しくて演技そのものに集中ができない場合がほとんど。
そのボナさんとは先日 『サイドウォーク・シャフル』 についてお話する機会を得ましたが、やはり手順にはかなり気を使うとのこと。
現役のトッププロのお話ですから、ちょっと安心しますね。
(^^♪
で、結局私は数年前に、それまでマイナーチェンジをひたすら繰り返してきた (自分なりの) 手順をなんとか落ち着かせましたが、
そのコンセプトはまず 「覚えやすさ」
そして 「いらない改めのカット」。
結局のところ、演じる人間にとってのストレスが減るということは、観客にとってもストレスの軽減につながるのです。
ある程度納得できたこの手順は、現在mMLで販売されております。
ルイス版のカードとはまた違った、レギュラーサイズカードでの別アプローチも付属しておりますので、お好きな方はネットショップからどうぞ。
ま、とにかく 『インビジブル・デック』 も 『サイドウォーク・シャフル』 も、カードマジック史上の名作ベストテンに入るであろう超傑作です。
大抵のマジックショップで取り扱われているはずですが、いい加減な解説書が多いのも確か ^^; そういった点も含めて、お店にきちんと問い合わせるか、信用のできる奇術家に直接聞いてみるのが一番だと思いますよ。
まあここんところの計算やら方向やらが実は難しいのですが…
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