失敗の意味あい

実際に観客の前で演技をする際に、みなさんが一番気にかけているのは 「タネがばれてはいけない」 そういったことではないでしょうか?

無論それは当たり前のことではあるのですが、もっと深刻な問題は “その部分” を気にするあまり、それ以前に何を表現しようとしているのかが伝わらない、さらにいえば何を表現するべきなのか自分でも理解していない、そういった方が実は多いということなのです。

技法がうまくできなかった、途中で手順を忘れた、タネがばれた、これはある意味 「失敗」 したことを “自覚しやすい” ので、まだいいのです。

 無論、比較の問題ではありますが……。

実際にさまざまな方の演技を見ていて感じることは、九割かた上記の部分の問題であり、“この問題自体が自覚しにくいものである” ということこそが難題なのでありましょう。

 演技を実際にされる方は、まずその事実を自覚することです。

さて、以上のようなことを含めて 「失敗」 なのだということを理解してもらった上で (まあ理解してもらえなくても先に進むのですが) 、例えばmMLでも何度か取り上げた、「シルバー&カッパー」 を演じるとしましょう。

正直に申しまして、エキストラ・コイン1枚とスウィッチ2回で成立する、シンプルな 「シルバー&カッパー」 (例えばジョン・スカーニーの手順) にしても、私が余裕を持って演じられるようになったのは、ここ5,6年のことです。

そこまでにはどう少なく見積もっても、10年以上の期間がそそがれているわけで、多くの方が考えているほど(シンプルであればあるほど)簡単なものではありません。

 実践の場合、単に技法や手順の問題だけではないからです。

仮にデヴィッド・ロスくらいの技量を持っていたとしても、コンディションによっては、技法レベルの失敗は充分にありえます。 練習段階で120点くらい取れていなければ、本番で60点くらいしか取れないのは当たり前ですが、実際に本番で60点未満であったと自覚できていれば、まっとうな人は、次回また同じ失敗を繰り返さずにすむことでしょう。

 しかし実際の “問題の核心” がもっと別の部分にあったとしたら?

もし仮にそれが、単純な技法自体がうまくできなかっただけ、ヘマをしただけ、本当にそうだったのだとしても、実はやみくもに技法を練習することだけが重要なのではありません。 

自分がなぜミスしたのか? それはコインの問題なのか? 自分の緊張の問題なのか? だとしたら例えば自分が緊張するのはどういう場合なのか? すべてをトータルに考え直さなくてはならないのです。

 

ちなみに “芸” は基本的になまものであり、上演回数が増えるほど、演技時間が長くなるほど、そしてクロースアップのように (基本的に) カジュアルに演じなければならないものほど、“本番で100% ノー・ミス(失敗しない)” ということはありえません。

言い方をかえれば、100点はなかなかとれない (無論ご本人の基準にもよりますが) ということです。

私自身は、自分の中にある理想を100点満点とした場合、なんとか平均70点は取りたいものだと考えています。

はたして残りのわずかな人生において、満点の演技ができる日が訪れるのだろうか? それができたとしていったい何回? 

私は良いマジック、良い演者を鑑賞できることを至上の喜びと感じる人間ですが、自分の演技に関してのモチベーションは上記のようなものです。

マジックの楽しみ方は人それぞれですが、もし自身が演技をされるのであれば、失敗しても、めげっぱなし、ほうりっぱなし、にせず、その経験を是非 “生かしてほしい” なあと (勝手に) 思っているわけなのでありました。 

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