さて、自分では当たり前だと思っていても、 「意外にそうとも限らないこと」 は、往々にしてあったりするものです。
ここ数年のマジックブームのおかげで、テレビの特番といえば、もはや当たり前に2時間、もしくはそれ以上の長さの番組が製作されており、一部の愛好者や、マジックファンの方のなかには、時間の感覚が麻痺している人が多いのかもしれません。
私の仕事としてのマジックのスタートは、大衆レストランにおける 「テーブル・ホッピング」(マジシャンがお客様のテーブルを訪問して、お店の無料サービスとしてマジックをパフォーマンスする) であったのですが、一卓の演技時間はせいぜい5分程度でした。
なぜこの演技時間なのかというと、一つにはお店のキャパが大きいことで、なるべく多くのテーブルを訪問しなければならないということ。
もう一つはお店の立場として、お客様の回転率を上げなければ売り上げに響くわけで、マジックを演じることで(結果的に)長く引き止めることは、けして得策ではないからです。
無論、お店がヒマなときや、常連のお客様などの場合は、必要に応じて少し長めに演技をすることもありましたし、問題がなければ2回、3回と、リクエストにお答えしたこともあります。
で、これはあくまでも 「お店の無料サービス」 ということであって、店、マジシャン、観客(食事がメイン)、という場合における一つのサンプルにすぎません。
仕事によっては、20分で10卓全部まわってください。といった場合もざらにありますし、一応現在では、それをなんとかする技術は持ちつつも…… 正直それが良いとは思いませんし、できれば一卓につき3分間は欲しいというのが本音です。 ま、それでも自分のキャラやスタイルを伝えることは至難の技なのですが…… いや、実際にそのような条件においては、必ずしもできてはいないのが現実で、仕事と割り切ってやるしかないのですが……。
逆に(主催者側から)演技時間を多く求められるというのもこまりものです。無論、演者の力がより必要になるのは当たり前なのですが、早い話、そこまでの力のない演者のパフォーマンスを、だらだらと見せられる観客の方がもっと大変なのです。
芸人用語でいう、いわゆる 「営業」 の場合、ステージで(まあ、実際にはそんなものが存在しない場所も多いのですが)最低でも30分の演技時間を求められることが多く、実際のところ、この30分間をワンマンで演じ切り、どんな場所でも、充分な反応をえられるマジシャンは、日本には数えるほどしかいないと思います。
仕事の場合、複数の芸人の中でマジシャンは一人の場合が多く、仮に1時間をこえるショーの場合でも、内容がバラエティーにとんでいて、力のある芸人さんの間に入っていれば、バランス的にもなんとか(ギリギリ飽きずに)見られるものになるのですが、これがもしマジックばかりであったら、観客は相当辛いであろうと思います。
世界で最も成功し、有名で、実力のあるマジシャン、デビッド・カパーフィールド氏が、かつて毎年放送していたTVスペシャルでも1時間、実質40分間ほどなのです。
とにかく一部のマニアのような方を除いて、マジックを本当の意味において楽しもうと思ったならば、長いよりは短い方が良いはずなのです。
繰り返しますが、これは、マジシャンにとっても、観客にとってもです。
フォーサイト主催の 「モダクラ劇場」 では、そのような経験に基づき、4人のマジシャンが、各々15分間演じ、正味60分間のプログラムを構成したのですが、実際にやってみて、この演技時間が妥当なものであることを再確認できました。
もし実際に一般のお客様を招き、30分間まかせても問題のない、実力のあるパフォーマーを使えるのであれば、2人で1時間のショーを構成すれば充分でしょうし、もし仮に(奇跡的に)そのような演者が3人使える立場に私が立ったとしたならば…… それでも1人の演技時間を20分にして、休憩もはさみ、密度の濃い 「あっという間」 のショーを構成する方が、賢い選択かなと思います。
さて、上記の例は、クロースアップであったり、ステージであったり、はたまたホッピングであったり、テレビであったりと、実にバラバラなのですが、要は実力に関係なく (だらだらと) 長いよりは、短めの方が (ま、ショーの場合の5分や、10分というのは極端ですが )よいだろうということです。
本当にカジュアルな、せいぜい3、4人を対象に演じるクロースアップの場合、相手側がより多くのマジックを求め、演者のパーソナリティを充分に受け入れてくれた場合は、演者のレパートリーおよび、その組み立てに問題がない限り、あそびの延長で適切な間をとりながらであれば、多少長く演じてもよいのかもしれませんが……。
いずれにしても相手が一般客である場合は、仮に求められたとしても、10分以上は演じない方が懸命でしょう。
実際のところ、10分間(それが遊びだとしても)相手の心をつかみ続けることは難しいのです。
結局のところ、表向きは 「お客様に楽しんでもらいたいのです」 などといいながら、ただ単に自分が演じてみたい、本当は自分が楽しみたいだけなのではないでしょうか? 極端な話、マジック・ハラスメントになってはいないでしょうか? もしみなさんが仕事としてマジックをしている場合は論外ですが (仕事として長く演じざるを得ない場合は、がんばるしかありませんけど)、アマチュアだとしても、そこに対象となる相手がいる限り、演技時間はもちろんのこと、マジック以前の気遣いができなければ、結局それはあなた自身のマイナスとなってしまうのです。
私もこの点は日々反省しております。
ホントに遊びで飲みにいったりすると、相手の求めに応じて2、3時間平気で演じ……というか、やり続けることありますからね! ^^;
まあ、とりあえず、常に意識しておいたほうが、得策かと思いますです。 はい。
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