何度も言っていることですが、mMLにおける基本スタンスは、 「一般の観客 (ごく普通の知性を持っている人間) が普通に鑑賞でき、できれば楽しめるもの」 といったことです。
それがどの程度実践できているのかは、無論、当人のトータルな力次第だとは思いますが、仮に奇術家に対するトリックであったとしても (とにかく一部だけでも引っ掛けたいといった、特殊な動機だけの場合はともかく)、私の場合でいえば 「一般の観客に伝わらないものには意味がない」 という信念のようなものは、おそらく高校生くらいから変わっていないかと思います。
……で、今回の素材は 「カップ&ボール」 なのですが、まず最初にいっておきたいのは、あなたがよほどの達人であり、人間的魅力に満ちあふれた人物でない限り、ヴァーノンをはじめとする名人上手の方々の手順を、「そのまま」真似することは、けして良い方法だとは思えません。
練習し、研究することを、水面下で、じっくりと時間をかけて楽しめる場合は、おそらく問題ないでしょう。
あるていど上達し (最も、ここの基準が 「ゆるゆるな方」 が、ビックリするほど多いのですが……これだけ名人達の映像が氾濫しているというのに、これはマジック以上に驚くべきことです。ただ、ここ数年のブームにより、テレビを通してこれだけあらゆるマジシャンが登場してくると、そのようなテレビ上での演技だけを参考とし、コピーしてしまう方も多いようなので、仕方のないことなのかもしれません)、 余裕をもてるようになるまでは、なるべくシンプルで、ショートな手順を、何度でも繰り返し演じてみるべきでしょう。
そのような意味でオススメの手順は、イギリスの重鎮、パット・ペイジ師のもので、
私は最初、研究家として著名な、高木重朗氏の演ずる映像を見ました。
多少アレンジはしてありますが、基本的な手順は、フォーサイト刊 「モダクラ2」 に解説してあります。実践的な、「手軽にどこでも演じられる手順」を、お求めの方には必見です。
また、ペイジ師自身の演じる映像も、現在ではDVDとなって販売されているようです。
私はまだビデオの時に、L&Lで買った記憶があります。プロっぽい見事な演技です。
ちなみに、昨年 「がくぶん」 より販売された、「驚異のクロースアップ・マジック入門講座」 のなかでは、上記の手順をさらにシンプルにした、ゆうきの手順が解説されておりますし、現在では、そこでの手順をさらに磨いたものも存在しますので、それらはまた、別の機会に発表したいと考えています。
ところで、このテーマは長くなりそうなので、続きはまた次回にしたいと思いますが、一つだけ、多くの奇術家の方が勘違いしていることに触れておきます。 それは、フェイク・パスによるヴァニッシュは 「ばれるものだ」 という誤解です。 無論、技法そのものが下手な場合は論外なのですが、適切に(コレが実は難しいのですが)行えば、魔法に見えることこそあれど、そう簡単にばれるものではありません。 ただし、多くの手順において 「使用頻度」 が高いのは、確かに問題であるといえます。
大抵の場合、仲間うちでしか演じることのないマニアは、そのような部分に対して、はじめからしょうがないものとして、目をつぶることが多く、また、プロの場合は、そういった弱点を、「キャラクターやコントロール」 でかわしてしまうことが多く、この点を 「さほど重要視してはいない」 ということが、そのような 「思い込み」 を蔓延させた原因ではないかと思います。
さらにいえば、最後の 「ビッグ・クライマックス」 で、ほぼすべてが 「帳消しになってしまう」 といった事情も、この古典トリックが 「ひどく大雑把に演じられる」 理由となっているのでしょう。
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