さて 『現象』 ということなのですが、結局話が分かりにくくなる (かもしれない) ことを予想しながらもあえて説明しておきますと、これはいわば 『ほぼ正確な見た目』 を表現しているわけであり、それに対して 『効果』 という場合は 『観客の感じる印象』 といったニュアンスがより強いものと考えます。
つまり実際に演じる際に重要なことは 『効果』 であり、最終的に私が優先しているのはコチラです。しかるに、ここであえて 『現象』 の分析をしようとしているのは、それが本来のスタートラインであるからに他なりません。
この部分の理解なしに気軽に改良できるほど、マジックは簡単なものではないと思うのです。
ヴィジターという現象
第一段 二枚のQの間にセレクトカードをはさみ、さらに半分程のパケットの間に混ぜ込み、卓上においておきます。ここで残り二枚のQにおまじないをかけると、その間にセレクトカードが出現します。
第二段 出現したカードを確認してもらった後、もう一度おまじないをかけると一瞬でそのカードは二枚のQの間から消えてしまいます。
第三段 卓上のパケットを広げると、その中央には二枚のQに “はさまれたまま” のセレクトカードがあります。
先ほど現象のことを 『ほぼ正確な見た目』 と表現しましたが、実は上記の記述では、一般的に問題視されている 《無意味なパケットの持ち替え》 等、観客には気がついてほしくない部分をわざと省略してあります。
まず理解すべきは、出現、消失、出現。といった、上記三つの現象でこの作品が構成されているということでしょう。
少し難しい話になるかもしれませんが、ヴィジターにおいて優れている点のひとつは、この現象を “本当に正確に” 表現しようものならば、 出現、卓上のパケットから消失の確認、手元のパケットから消失、もう一度卓上パケットからの出現。といったように、本来ならば四段階になるところを、一段階省くことで全体の印象をスピーディーにしている部分です。
※ 無論そうなったのは 『方法論』 のせいでもあるのですが、この部分を省くことによって、このトリックは単なる移動現象の表現にとどまらず、演者のさじ加減ひとつで、いわばエルムズレイの 『ビトウィーン・ユアパーム』 や、ジェニングス自身の 『ミステリー・カード』 のような 『ドッペルゲンガー効果(ゆうきの勝手なイメージ)』 に近い印象を与えることができるという、新たな可能性を示唆することになった作品であるともいえそうです。
ところで前回、5枚だけのパケットでこの現象を達成した作品は……という話がありましたが、これはここでいう 『効果』 という面では限りなく近いかもしれないのですが、ヴィジターの場合 『現象』 という面で考えると、デック (正確にはパケット) を使用することでより不可能設定を高めている部分 (つまり二枚のQにはさみ、さらにパケットの中に入れる部分です) があるため、ここの部分をうまく利用できないと、ヴィジター本来の良さを生かせないような気がします。
いずれにしても 『現象』 がある程度理解できさえすれば、こういったトリックをより良いものにするための考察もしやすくなります。つまり観客に気にしてほしくない部分はどこなのか? コイツを知ることが大切なわけです。
実はヴィジターに関しては、さっきはあえて詳しく書かなかったことで、ひとつ根本的な問題があります。 ごく当たり前のことなのですが、少なくともあまり文章にはなっていない部分。 当然気がついている方も多いことでしょうが……次回はそいつについて書きましょう。
コメント