カップ&ボール再考 6

さて、しばらく間があきましたが、無事mML一周年記念号の収録も終わりましたので、引き続き考察を続けたいと思います。

ここでまず、4おまけ、および5において触れた、前田さんのシングルカップの手順について、私の考えを説明しておきたいと思います。

基本的に 「オススメできる考え方ではない」 と申し上げましたが、それは、ここで考察しているテーマが、 「三つのカップを使ったオーソドックスな手順」 そういうことが前提となっているからであり、単純に、観客にサプライズを提供することがテーマである場合においては、戦略として 「けして悪くない考え」 だと思います。

実は私、ギャンブリング・デモンストレーションや、一見テクニカルな手法に見えるマジックの、 「偽のタネあかし」 が結構大好きで、現在でもたまに演じるのですが、あるとき 「何故このタイプのトリックが好きなのだろう」 そう考えたときに気がついたのは、たとえ嘘の説明ではあっても、観客にとって納得の行く 「着地点」 になっていることで、お互いに安心して演技を楽しむことができるということでした。

また、このテーマは(伝統的に?)観客も興味を持ちがちで、その点 「嘘のタネあかし」 をするための三つの条件②にあたる 「観客がその秘密を知りたいと思う」 といった条件にも(ほぼ自動的に)あてはまることになり、その部分においては優れているのです。

無論 「その部分」 はマジックではなく、いわば 「フラリッシュ」 に近いものとして、演者の技術力を認知させるためのパフォーマンスであり、節度を持って演じなければいけないのですが、うまく演じさえすれば効果的なことは間違いありません。

結論から申しますと、前田さんの手順において一番よくない点は、 「本当のタネあかし」 をしている部分なのでしょう。

この部分を少し考えさえすれば、上記のコンセプトにそった、ショートでミスディレクションの強い 「強力なつかみの手順」 となるはずです。

さて、それではいよいよ本編に入りたいと思いますが、先日のカズ氏とのセッションにおいて気付いたことや、再確認したことなどを含めながら進めてまいります。

久しぶりに生のフル手順を二回観ることができたのですが、内容は非常に 「すばらしい」 ものでした。おそらく、身一つでカップ&ボールを演じて、これほど観客をわかすマジシャンは日本には氏をおいて他に存在しないでしょう。

それほど楽しめましたし、間違いなく以前よりもパワーアップしています。

……そのことについては疑いようのない事実なのですが、ここで考察したいのは、あくまでも 「手順そのもの」 に関してのことです。

マジックにおける演技というものは 「トータルなもの」 であり、技法だけでも、ギミックだけでも、無論手順や、キャラやトークだけでも成り立ちません。

各々のクオリティが高いことはもちろんですが、それらすべてのバランスが良くなくてはならないのです。

カズ氏の場合は、このバランスが程よく取れており、とにかくパワフルなので、私が以前指摘した 「けして良くない部分」 も、生で観る限りほぼ気になりません。

なぜならば、その前の段階において、心を(しっかりと)つかまれているからです。しかしこれは、裏を返せば、 「それだからこそ見えなくなってしまう部分」 でもあり、また、当人以外の、そもそもそういったパワーを待たない人が、けして真似をしてはいけない部分なのです。

映像では、どうしてもライブ現場の生の空気(臨場感)を伝えることはできません。来月会員の皆様にお届けする映像で、どこまでその 「芸としてのすばらしさ」 が伝わるのか分かりませんが、できれば自分の演技の 「参考にしよう」 などと、おこがましいことは一切考えず、純粋に楽しんでもらえればと思います。

観客の前で実際に演技をしようと考えたときに、まず行うべきは、各々のパートにおけるクオリティを 「それなりのもの」 にすることであり、 「手順」 もまた、そういったパートの一つなのだと考えてください。

はじめはなるべく短く、無理せず、余裕を持って演じられるものを選ぶべきです。

奇術界においては、どうしても目新しいものが評価されがちなキライがありますが、

演目を選ぶ際のセレクションにこそ、マジシャンとしてのセンスが垣間見えると思います。

一般の観客から見て、いかにも大変そうに見えるマジックを演じている人物は、その時点でマジシャンではないのです。

えー……気付いたら、あまりカップ&ボールの考察になってはいないようですが、この続きはまた次回ということで……。

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