「これはトーン&リストア カードトリック・オブ・ザ・イヤーに輝くものです」
……という宣伝文句がツボだったゆうきです。
「そ、そんな賞があったの?」 とか、「いったい誰が……」 といった疑問はもちろんですが、動画を見る限りでは、「そのフレーズって、もしかすると映画の世界でいうラジー賞とか、そういう意味なのかな?」 などと思ってしまいました。
いや、ラジー賞がすべてクズ映画だとは思ってませんし (結構好きな作品もあったりします(^_^.))、このトリック自体も買って内容を確認したわけではなく、あくまでも宣伝文句と動画のバランスに感じた印象だけのお話ですが……。
Jordan Johnsonという人の製品 (DVD)らしいのですが、現象はガイ・ホリングワース氏以降定番になったといっていい、観客がサインした後、4ピースにちぎったものが一辺ずつつながっていくタイプです。 と、いうか、それを目指しているらしいのですが、デックを持っていたり、持っていなかったりと、段取り的にどうにもバランスが悪そうな……。
ごく当たり前のことなのですが、完璧なトリックというのは存在しません。このテーマのはしりともいえるホリングワース氏の手順では、上記のプロブレムを解決するためにずいぶんと多くのことを犠牲にしています。
※ただしご本人の演技を生で、しかも目の前で見る限りは魔法に見えます! 私は最初100人くらいの会場で、かなり後ろから見たのですが、そのときは正直 (ここまで実際に構成し、作り上げたことだけでも十分に凄いことだとは思いつつも) 裏の仕事が結構目立つことを感じて、やはり無理のあるトリックだなと思ったものです。しかし翌日クロースアップで見せられたとき、その印象の変化に驚きました。
俯瞰ではどうしても気になった部分が、そばで見ている限り気にならない、より正確には (その現象のマジカルさゆえに) 気にする余裕がなくなるのです。
まあ元々クロースアップトリックとして構成されているんですから、考えたら当たり前のことですよね? この話、映像とライブの関係に置き換えてもいっしょかもしれません。
ものごとには (ここではトリックということですが) 作者の意図にそった正しい?見方…… 仮にそうでなくともベストの見方というものがあったりするわけで、ここは発言をする際に十分気をつけなくてはならないところです。
で、もちろん上記の例のように 「ありじゃん?」 てのはガイ氏レベルで上手にできたらのお話。
しかしながら犠牲にはしているものの、それは裏の仕事のわずらわしさや難しさであって、それがクリアできていれば (無論それはそれで大変なことですが) 観客に違和感を持たせるものではありません。
ここのバランス感覚がマジシャンとしての創作のセンスなのだと感じます。
極論をいえばカードを破って皺まで完全に復活させるのであれば、今のところ演技の流れの全てが合理的で緻密に構成されているデビッド・ウィリアムソン氏の手順がベストだと思いますし (極論ですよ!極論、この作品だってご本人以外では、演技も含めて上手い人を見たことないですもん) 、デックが直前まで必要ならば、アレキサンダー・デコバ氏の有名な手順の方がインパクトがありそうです。
これらの手順は観客にサインこそさせませんし、一辺ずつの復活ではありませんが、その他の良い復活の要素を、それぞれ最大限に生かしています。
カードを選ばせ、サインさせ、4ピースに破り、一辺ずつ復活し、皺まで消えて、手渡し可能、なーんて条件をすべてクリアにするなんてことは、絶対にどこかに無理がしょうじますし、そもそもそのような 「不可能設定自体」 が観客に対して不思議や楽しさを感じさせる要素とイコールではないことをまずは認識すべきでしょう。
※ガイ氏の場合、デビッド・カパーフィールド氏の (ありえない) TVショーを見て 「リフォーメーション」 を考案したそうで、創作の際の強力なモチベーションになることはあるのでしょうね。
私は奇術家にとって 「プロブレム」 そのものは必要なものだと考えます。しかし提示の仕方や前提を間違えると、それは観客にとっても当人にとってもプラスにはなりません。この部分は常に自覚しておく必要があるでしょう。
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